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特集 エピジェネティクスと医薬品の標的分子
エピジェネティクスからみた精神・神経疾患治療薬の開発
久保田 健夫
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2011 年 21 巻 4 号 p. 27-30

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抄録

 神経細胞は遺伝子の発現量に敏感な細胞である。それゆえ、脳は厳密な遺伝子のコントロールを要求する臓器である。一方、エピジェネティクスは、遺伝子発現のコントロールを司る体内のシステムの1 つである。したがって、この機構に異常が生ずると、先天的・後天的な精神・神経症状が生じることになる。
 エピジェネティクスの特徴は、DNA の「配列」ではなくその「修飾」に基づく遺伝子の調節である。DNA の配列は滅多に変化しないが、修飾の方は、種々の環境要因により、変化することがわかってきた。具体的には、栄養、薬物、環境化学物質、幼少期の精神ストレスなどである。さらに、環境によって変化したゲノム上のエピジェネティクス修飾(エピゲノム)が、次世代に遺伝する可能性、ダーウィン進化論に対する反証とも言える考え方、が議論され始めた。
 エピジェネティクスの特徴は、DNA 上の着脱可能で可逆性のある化学修飾である。したがって環境などによって異常となったエピゲノムの修復は、可逆性を活用できる点で、DNA 配列の修復より容易と考えることができる。さらに環境エピゲノム変化の次世代連鎖の観点から、その修復は、当事者の治療にとどまらず、負の連鎖を断ち切る意味で末代までの治療と位置づけることもできる。
 エピゲノム修復物質は特別なものではなく、既に頻用されている薬や一般的な栄養素にもその効能であることが最近、わかってきた。しかしこの知見を活かし、よりよい治療薬を開発することは、次世代の薬物開発の新しいコンセプトといえよう。本稿が、創薬に携わられる方々に、新たな発想をご提供できれば幸いである。

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