2019 年 29 巻 2 号 p. 87-91
BACE1阻害による脳内アミロイドβ量の制御は、アルツハイマー病の発症機序に基づく疾患修飾療法となることが期待されている。一方、BACE1ホモログであるBACE2においては、阻害することにより毛の脱色等が報告されているが、生体内の役割は依然不明な部分が多い。筆者らは、BACE2阻害による潜在的安全性リスクの低減を目的として、BACE1選択的阻害剤の探索研究に着手した。非選択的阻害剤verubecestatのBACE1とBACE2複合体結晶構造の比較から、S2’ポケットの水分子ネットワークが両酵素で異なり、BACE2でより安定に存在することを見出し、これらの活用により選択性が獲得できると考えた。本水分子をねらったSAR研究の結果、107倍の選択性を有するプロピニルオキサジン化合物7を見出した。化合物7誘導体と両酵素との複合体構造中では、共に水分子ネットワークが切断されていた。本研究結果はBACE2に対する選択性獲得において本水分子をねらった戦略が有用であることを示すものである。