2019 年 29 巻 3 号 p. 119-122
プロスタグランジンE2(PGE2)が生体内リガンドとして作用するEP受容体には、EP1からEP4の4種類のサブタイプが知られている。そのうちEP2受容体を介する作用として平滑筋弛緩作用、EP3受容体を介する作用として平滑筋収縮作用が知られており、それぞれ尿道、膀胱に発現していることも知られている。低活動膀胱は、排尿筋収縮力の低下が原因の尿排出障害であるが、既存薬では有効性が十分ではなく、新規治療薬に対するニーズは非常に高いことが明らかとなっている。そこで本研究では、EP2とEP3受容体に対するデュアル作動薬が有効な低活動膀胱治療薬になり得るとの仮説の下、その分子設計と合成を行った。その結果、得られた経口投与可能なEP2/EP3デュアル作動薬であるONO-8055は、複数の動物モデルにおいて有効性を示し、さらには欧州の臨床試験(Phase I)において、良好な動態ならびに安全性プロファイルを示した。本稿ではメディシナルケミストリーの観点から、ONO-8055の創製に至った経緯を紹介する。