抄録
1)川崎市内に実験水域を求め, 下水溝に発生するアカイエカ幼虫に対して3種の殺虫乳剤稀釈液を撒布し, 2日後に効果を判定した結果, diazinonが最も少量で有効であり, lindane, dieldrinはこれよりも劣つていた.すなわち, ほぼ完全な駆除効果を得るためにはdiazinon 5%乳剤では200倍稀釈液の150cc/m^2撒布で充分であり, lindane 10%乳剤では, 100倍稀釈液の800cc/m^2を必要とし, dieldrin 5%乳剤では100倍稀釈液の800cc/m^2でも完全な駆除効果が得られなかつた.2)これを, 伝染病予防法施行規則中の殺虫剤使用基準と比較すると, lindane, dieldrinではこの基準量よりはるかに多量の撒布を必要とし, 逆にdiazinonではこれよりも少い量で駆除効果が得られる.また, 他の文献に示された有効量と比較しても, ここに用いた実験地のアカイエカ幼虫に対しては, lindane, dieldrinでは遥かに多量を必要とする.3)川崎市内9カ所の下水溝からアカイエカ幼虫を採集し, これについて殺虫剤抵抗性の簡単な実験を行つた.この結果を, 東京都内から採集し実験した5系統の抵抗性と比較し, また, 伝研系のLC-50 (池庄司ら, 1958)と比較検討した結果, 川崎市内から採集した幼虫はp, p'-DDT, lindane, dieldrinに対して著しく高い抵抗性を示すことを知り, これを従来の頻繁な薬剤撒布による抵抗性の発達によるものと推定した.