2022 年 9 巻 p. 225-241
本研究の目的は、ブラジルの大学入試に関するクォータ制度がもたらした学生の変容について現地学生のインタビューを通して明らかにすることである。ブラジルにおいて、高等教育へのアクセスは人種や社会階層によって偏りがみられる。そのような格差を是正すべく、民主化運動を背景に、ブラジルでは大学入試におけるクォータ制度が導入された。先行研究では、制度導入後、制度利用者と非制度利用者の間で分断が存在するということが確認された。そこで、本研究は、二者間の実状を踏まえた上で、交流を契機とする学生の変容についてインタビュー調査によって明らかにした。 クォータ制度は教育機会の均等や格差是正を目的に導入されたが、導入後には非制度利用者側が入試制度に不公平と感 じていることや制度利用者と非制度利用者の交流の機会がないことなど、ブラジル社会の格差問題が背景にあると考えられる課題が大学内において依然として存在していることが確認された。それは非制度利用者と制度利用者の間で分断の要因になっていた。また、格差是正を目的に設けられたクォータ制度導入後、一部の非制度利用者は制度や制度利用者に対して不公平と考えていたが、交流を通して分断から共生へと意見を変えた非制度利用者の存在が明らかになった。また、交流を通して社会に存在する構造的な差別に目を向けることで、大学内の分断が解消される可能性を見出した。