本稿の目的は、マイノリティ集団の複数在籍という学校の 社会的な文脈が、いかにしてニューカマー生徒支援の課題に影響するのか、その要因と合わせて明らかにすることである。 本稿で明らかになった知見は以下である。
ニューカマー生徒と同程度以上に厳しい状況にある同和地区出身生徒といったマイノリティ生徒が在籍してきたA 中は、差別の現実から実践を形成してきた歴史的な文脈を有しており、地区出身生徒の差異のジレンマ(アウティングなどのリスク)に直面しやすくなっていた。こうした状況から、ニューカマー生徒を対象とした支援の実施に関しても地区出身生徒への配慮が同時に求められ、取り組みの実施について慎重な判断が必要となっていた。直接的な資源配分が容易に行いづらいという意味において、マイノリティ集団が複数在籍するという社会的な文脈が、ニューカマー生徒支援を困難にしている側面があると考えられた。しかし、直接的な支援の実施に慎重な判断が求められることから、A中では差異のジレンマを回避しつつニューカマー生徒を含むマイノリティ生徒を支援するために、授業時間外に複数のマイノリティ集団が少人数で集い活動できる場(人権サークル)を構築することや、信頼できる生活班を基本とした多文化共生教育などの取り組みが模索されていた。
本稿の知見から、ニューカマー生徒支援の課題や可能性について、社会的にマイノリティとなる生徒の在籍状況といった社会的文脈と合わせて捉えていく必要性を指摘した。
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