本研究は,社会的企業への戦略マップの適用可能性を議論することを目的とする。和歌山県田辺市上秋津地区の地域経営組織である㈱秋津野を対象に約2年間のアクションリサーチを実施した。聞き取り調査およびワークショップ形式での調査を行うなかで,新たなマスタープランづくり,事業継承という喫緊の課題を抱えていることがわかった。これらの課題について,一般に業績評価ツールの一つとして知られる戦略マップが2つの点で貢献できる可能性を確認した。一つは,その地域経営におけるリーダーシップの発揮および経営資源の効果的な利活用に関連するマスタープラン作成の場面において,全体像を俯瞰する形で戦略的な計画策定およびその後の戦略的マネジメント・コントロールを期待できることである。もう一つは,個々の事業の成果をめぐるストーリを可視化する形で事業継承などを念頭に世代間での前向きなコミュニケーションを創造し,持続性創出への貢献が期待できることである。