メルコ管理会計研究
Online ISSN : 2189-2776
Print ISSN : 1882-7225
ISSN-L : 1882-7225
院生論文
組織学習論を援用したマネジメントコントロール研究の現状と課題
庄司 豊
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 12 巻 2 号 p. 81-93

詳細
抄録
本研究は,マネジメントコントロール(MC)研究における組織学習論の影響を整理し,組織学習論を援用したMC研究の課題について提示する。先行研究の整理にあたっては,源流となる研究の差異に焦点をあてた3つの代表的な組織学習論の系統である,組織のトップレベルによるアンラーニングに焦点を当てているHedberg系,組織メンバー全体に焦点をあてダブル・ループ(DL)学習を行うための処方箋の提示に主な関心を持つArgyris系,組織ルーティンの概念を議論の中心においているMarch系に分けて検討を行った。
 分析の結果,MC研究に援用されているのはArgyris系かMarch系のいずれかであり,特にArgyris系の組織学習論を採用する研究が多いことが分かった。さらに,Argyris系を用いている研究とMarch系を用いている研究では扱われている問題が異なっているため,研究関心に合わせた適切な組織学習論を用いることの重要性が明らかとなった。
 次に既存研究の課題点として,まずHedberg系の組織学習論との関係を検討しているMC研究がほとんどなく,MCとアンラーニングの関係性についての検討が不十分であることが分かった。アンラーニングは組織が新たな知識を獲得する前提となるプロセスであり,特に環境変化の激しい環境で組織が生き残る際に重要となるため,MCとアンラーニングの関係性についての検討がMCと組織学習の関係をより深く理解するために今後必要となる。 また,Argyris系の組織学習論を用いた研究が多いものの,Argyris系の特徴である個人レベルや集団レベルの学習が組織レベルの学習まで至っているかについて検討している研究が少ないことも明らかとなった。MCが直接影響を及ぼすのは組織メンバーであることが多いので,MCによる組織メンバーの学習が組織学習までどのようにつながるのかについてさらなる検討が必要である。さらにArgyris系の組織学習論を用いた研究では,DL学習の概念が拡大解釈されて使用される傾向があり,DL学習を実現しやすくする組織の行動原理とMCの関係を取り扱っているのか,DL学習自体とMCの関係を取り扱っているのかが明確ではないため,この2つを区別しMCとの関係を検討することが今後の研究で必要となる。
著者関連情報
前の記事 次の記事
feedback
Top