メルコ管理会計研究
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12 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特別寄稿論文
  • 加登 豊
    2021 年12 巻2 号 p. 3-18
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー
    「管理会計とは何か」「管理会計の本質はなにか」「管理会計に期待される機能は」という根源的な問いに答えることなく,あるいは,これらに対する回答は自明であるという前提のもとで現在の管理会計研究は進められている。かつて,管理会計研究の主要テーマであった管理会計の存在意義の検討は,いつの間にか行われなくなった。そのこともあって,昨今の管理会計研究は,管理会計の経営実践への有用性という視点から見れば羅針盤を失って漂流する難破船,あるいは,荒地に勝手気ままに育つ根無し草の様相を呈している。そのような管理会計研究は,経営者や上位管理者からも,また,他の経営学の研究者からも一瞥もされない。それにもかかわらず,研究者にはこのような現状を憂うる気配すらない。
     本論文では,管理会計の存在理由を再確認した後に,なぜ管理会計の意義は忘れられがちになるのかを説明する。そして,管理会計の有用性を経営実践の場で正しく認識してもらうための方策やこのトピックスに関する検討事項を明らかにする。
研究論文
  • ある政令指定都市の中規模私立総合病院における吸収役と双方向の窓
    井上 秀一
    2021 年12 巻2 号 p. 19-37
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー
    本稿の目的は,医療機関の「会計化(Accountingization)」(Power and Laughlin 1992)におけるミドルマネジメントの役割について,in-depthのケース・スタディを採用し,そのプロセスを明らかにすることである。
     会計化は,現場が会計コントロールによる影響を受けた結果,現場の活動が本来の姿から歪められてしまうような状態を意味する。会計化に対し,ミドルマネジメントは「吸収役(Absorption)」(Laughlin et. al. 1994ab;Broadbent and Laughlin 1998)と「双方向の窓(Two-way windows)」(Llewellyn 2001)という2つの役割を果たすことが指摘されている。
     「吸収役」は,トップマネジメントから現場に対する会計の影響を吸収し,現場が活動に集中できるよう保護する役割である。「双方向の窓」は,ミドルマネジメントがトップマネジメントの示す会計情報を翻訳し,現場に浸透させる一方で,現場の意見を集約し,それをトップマネジメントにフィードバックする役割である。
     本稿では,「医療機関のミドルマネジメントは,トップマネジメントからの会計的な圧力に対し,どのように吸収役や双方向の窓の役割を果たしているのか」というリサーチ・クエスチョンを設定し,ある政令指定都市の中規模私立総合病院を対象としたインタビューおよび参与観察を実施した。調査の結果,以下の3点が明らかとなった。
     ⑴ミドルマネジメントは,現場への会計的な圧力によって現場の本来の姿が歪められてしまうことを防ぐために,吸収役としての役割を果たす。この場合,管理会計システムと現場の活動はルース・カップリングあるいはディカップリングの状態で維持される。
     ⑵業績悪化をトリガーとして,ミドルマネジメントは吸収役を維持できなくなり,双方向の窓に役割が切り替わる。この場合,管理会計システムと現場の活動の連動が図られる。
     ⑶各診療科別の損益データをはじめとした粒度の細かいデータをタイムリーに現場に提供することによって,ミドルマネジメントの役割が吸収役から双方向の窓に切り替わる可能性がある。
     本稿は,Power and Laughlin(1992)で議論されている会計化の概念を拡張したうえで,上記⑴,⑵,⑶という経験的なデータに基づくプロセスベースの知見を加えたことに貢献がある。
  • 新井 康平
    2021 年12 巻2 号 p. 39-46
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー
    日本企業において,リーン生産の諸要素が工場・事業所の会計・経理担当者が必要としている会計知識に与える影響を探究することが,本論文の目的である。具体的には,群馬県の工場・事業所を対象とした郵送質問票調査に基づいた分析を実施した。分析結果からは,管理会計を複雑化するのではなく,簡略化された戦略管理会計実務を実施するために会計知識が必要とされることが明らかとなった。
  • 逆淘汰防止のための経営管理ツールの構築に向けて
    山本 達司, 田口 聡志, 三輪 一統
    2021 年12 巻2 号 p. 47-62
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー
    本研究では,従業員による逆淘汰の事例として予算スラックの形成に着目し,それを削減する企業内環境観察システムの提案を行う。すなわち,粗雑なシグナルを発するシステムと精緻なシグナルを発するシステムの比較検討を行う。実験室実験の結果,粗雑なシグナルを発するシステムが従業員の報告により強く影響を与え,シグナルの上限を超える報告に対して管理者が拒否する傾向が強かった。つまり,粗雑な情報を発する企業内環境観察システムと,その許容範囲を逸脱する従業員報告に対する管理者の拒否権との併用が,経営管理ツールとして優れている可能性がある。
  • 業績管理システムの運用と埋め込み度への着目
    鬼塚 雄大
    2021 年12 巻2 号 p. 63-80
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,本社によるPMSの運用,および現地環境における在外子会社の埋め込み度の視点から,在外子会社による意思決定に対する本社PMSの影響を明らかにすることである。研究目的達成のため,在日子会社トップ・マネジメントを対象とした質問票調査から収集したデータをもとに分析を行った。その結果,現地顧客に対する在外子会社の埋め込み度は本社によるPMSのインタラクティブな運用の影響を抑制する一方で,現地サプライヤーに対する埋め込み度はPMSのインタラクティブな運用の影響を促進するという結果が確認された。
院生論文
  • 庄司 豊
    2021 年12 巻2 号 p. 81-93
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/03/08
    ジャーナル フリー
    本研究は,マネジメントコントロール(MC)研究における組織学習論の影響を整理し,組織学習論を援用したMC研究の課題について提示する。先行研究の整理にあたっては,源流となる研究の差異に焦点をあてた3つの代表的な組織学習論の系統である,組織のトップレベルによるアンラーニングに焦点を当てているHedberg系,組織メンバー全体に焦点をあてダブル・ループ(DL)学習を行うための処方箋の提示に主な関心を持つArgyris系,組織ルーティンの概念を議論の中心においているMarch系に分けて検討を行った。
     分析の結果,MC研究に援用されているのはArgyris系かMarch系のいずれかであり,特にArgyris系の組織学習論を採用する研究が多いことが分かった。さらに,Argyris系を用いている研究とMarch系を用いている研究では扱われている問題が異なっているため,研究関心に合わせた適切な組織学習論を用いることの重要性が明らかとなった。
     次に既存研究の課題点として,まずHedberg系の組織学習論との関係を検討しているMC研究がほとんどなく,MCとアンラーニングの関係性についての検討が不十分であることが分かった。アンラーニングは組織が新たな知識を獲得する前提となるプロセスであり,特に環境変化の激しい環境で組織が生き残る際に重要となるため,MCとアンラーニングの関係性についての検討がMCと組織学習の関係をより深く理解するために今後必要となる。 また,Argyris系の組織学習論を用いた研究が多いものの,Argyris系の特徴である個人レベルや集団レベルの学習が組織レベルの学習まで至っているかについて検討している研究が少ないことも明らかとなった。MCが直接影響を及ぼすのは組織メンバーであることが多いので,MCによる組織メンバーの学習が組織学習までどのようにつながるのかについてさらなる検討が必要である。さらにArgyris系の組織学習論を用いた研究では,DL学習の概念が拡大解釈されて使用される傾向があり,DL学習を実現しやすくする組織の行動原理とMCの関係を取り扱っているのか,DL学習自体とMCの関係を取り扱っているのかが明確ではないため,この2つを区別しMCとの関係を検討することが今後の研究で必要となる。
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