抄録
原価企画研究におけるマーケット・ベースの価格決定方式の利用に関する知見では,競争の激しい経営環境において企業が業界で形成されている市場価格を所与として捉え,目標利益(率)を達成するために成行原価を目標原価まで削減しなければならないとされてきた。しかし,同一業界に属する競合他社は近似した販売価格を設定していることが多いため,この知見を採用した企業が過酷な価格競争にさらされるといった問題がみられた。この問題に対して,本研究は競争の激しい経営環境におかれている中国のある飲食店が,かかった変動費に基づき同じ市場セグメントに属する競合他社が提示した価格よりやや高めの販売価格を決定している事例を取り上げて,その要因をHänichen(1995)のフレームワークを用いて分析した。その結果,事例企業が立地や経営規模,機械設備,従業員の側面から,顧客にとって魅力的な場所であり続けることに努めていることが分かった。また,このような努力によって実現した料理の提供に係るサービスの質を競合他社と差別化できるように,事例企業は顧客ニーズがある一方で競合他社が少ないビジネス向けの宴会という市場セグメントに特化したことが分かった。本研究は,顧客ニーズがありつつも競合他社が少ない特定の分野に特化し,そこで差別化を図ることができれば,かかった変動費に基づき競合他社が提示した価格よりやや高めの販売価格を決定することが可能になると結論づけた。