抄録
似た条件で各種ポリ (メタクリル酸n-アルキル) を合成し, その熱重量測定 (TG) を行い, 初期解重合反応の活性化エネルギー (ΔE) と分解開始温度 (Td) を求めた.
得られたΔEの値は40~80kJmol-1で通常知られている炭素一炭素結合解離エネルギーの約1/4以下である.炭素一炭素結合の開裂は, 元のポリマー分子の被占軌道 (HOMO) にいる電子が生成ラジカルの半占軌道 (SOMO) に入ることにより成り立つと考えて, 炭素一炭素の開裂に要するエネルギーを, ポリ (メタクリル酸メチル) のモデル化合物について, 拡張Hückel法により求めた.その結果, その値はΔEに近い値 (約70kJmol-1) が得られた.逆生長反応の活性化のエネルギーは約90kJ mol-1以下と見積れた.
このことは, 解重合の律速過程は, 必ずしも, 従来いわれている開始過程にないことを意味する.また, この値はコンフォメーションに依存した.このことは, コンフォメーションが熱分解に関係すること (熱分解の分子運動依存性) を示唆する.これは, Tdがメチルからn-プロピルへとアルキル基の炭素数が増すにつれて低下するという, ガラス転移温度のアルキル基依存性と似た挙動を示すことからも支持される.n-ヘキシル, n-ヘプチル, n-オクチルでは, Tdは510K, ΔEは44kJmol-1でほぼ一定であった.これは, 解重合により生成したモノマーがすぐには蒸発 (沸騰) せず, 分解した結果であると解釈される.