宮崎県立看護大学研究紀要
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術後せん妄状態にある患者に対する中堅看護師の臨床判断に関与する思考の構造
上富 史子久野 暢子山岡 深雪
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2023 年 23 巻 1 号 p. 1-20

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抄録

目的:本研究は術後せん妄状態にある患者に対する中堅看護師の臨床判断に関与した思考とその構造を明らかにし,看護実践上の示唆を得ることを目的とした。方法:急性期病棟勤務の中堅看護師13名を対象とした半構造化面接を実施した。逐語録の内容を術後せん妄ケア対応の時系列で対応前・中・後に分類し,質的分析を行いカテゴリー化した。その後,カテゴリー間の関連を可視化した。結果:367のコード,70のサブカテゴリー,20のカテゴリーが抽出された。対応前・中のカテゴリーでは,身体拘束や薬剤使用,家族協力依頼に関するものが共通していた。カテゴリー間の関連から,中堅看護師の思考は,対応前にはアセスメントからあらゆる対応手段を考え,患者へのケアを優先するものであったが,対応中は感情が揺れ,患者の安定と業務遂行を模索しながらどのような状況であっても対応するしかないものであることが示された。また対応後は,自己の看護実践を振り返りながら患者への責任を果たし学びに繋げつつも後悔や患者への看護に対する心残りがあることが示された。結論:中堅看護師の術後せん妄状態にある患者に対する臨床判断に関与した思考は,患者の安全考慮と危険回避をより重視するために,身体拘束や薬剤使用,家族協力依頼が共通していた。また,中堅看護師は対応前には冷静にアセスメントしていたことも,患者を前にすると動揺し,限られた時間の中では状況がどうであれ対応するしかないと考え,対応後に一連の対応を振り返りながら自信に繋げる一方で後悔に苛まれていた。これらのことから,中堅看護師が術後せん妄状態にある患者に対する臨床判断を行う中で,自己の経験から学びを見出す省察ができない可能性が示唆された。術後せん妄患者に対するより良い看護実践のためには,中堅看護師が自己の臨床判断を客観視し,多様なアセスメントの仕方を見出しながら,時系列に沿った省察の積み重ねをすることが求められる。

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