抄録
大地クラッタを除去して、降水エコーのみをレーダ情報として取り出すことの出来る、ディジタル方式MTI (Moving Target Indicator) 気象レーダシステムを開発した。
大地からのレーダ反射波振幅は、レーダ装置により生ずるレーダ雑音・電源リップルと、空中線走査効果及びレーダ電波の伝搬効果によって変動しているが、気象庁の標準気象レーダの場合、その主要周波数スペクトル成分は直流付近の比較的狭い周波数領域に限定されているので、高域周波数ろ波器としてのMTI消去器をもってその大部分は除去することが出来る。この場合、MTI信号処理装置の入出力電圧振幅比で定義する消去比の劣化に最も寄与するのは空中線の走査効果によるものであって非帰還型3次遅延MTI消去器を使用すれば十分なことが分かった。しかしこの場合でも変動成分中には、レーダ雑音及びレーダ波伝搬効果の一部による一様周波数成分が存在しているので、これ等はMTI消去器では除去出来ず、実験に用いたレーダの場合消去比の最大は35dBに限定された。
このため更に2つの方法を加えることによって、大地クラッタによるMTI残査の完全除去を図っている。第1の方法は大地クラッタ域の空間相関が、降水エコー域のそれにくらべて小さいことを利用して、レーダデータの面積平均を行うことにより、容易にその平均化した大地クラッタを最小識別レベル以下に減少させることが出来る。
第1の方法で消え残りを生ずる場合には、第2の方法を併用して一定値以上の消去比値をもつ大地クラッタを強制的に取り除いている。即ち、原始レーダデータの距離分解能が1Kmの場合、利用目的によって分解能を2及び5Kmとしたとき、その閾値消去比をそれぞれ12及び19dBにとれば大地クラッタを完全に消去出来、10Kmの場合には面積平均効果のみでクラッタの完全除去を達成出来た。
一方雨量強度の定量的測定の立場から、MTI信号処理システムの設計を行い、気象レーダにおける通常の信号処理によるNormal信号とMTI信号レベルの一元化を図っている。この場合MTI方式による独自の測定誤差として、レーダ反射波信号振幅のRayleigh分布からの偏移とパルス間の振幅相関の増加がある。雨エコーの場合にはこれ等2つの要素は最も理想的な状態にあり、Normal信号処理を基準とした測定誤差は±10%であった。ブライトバンドエコーについては主に相関係数が0.2~0.3に劣化し-25%の誤差、雪エコーについては主にRayleigh分布からの偏移によって+20%に達する誤差が測定された。
更に大地クラッタに重畳した降水エコーに対する取扱い、及び海クラッタに対するCAPPI信号処理の導入について述べることによって、MTI方式によるクラッタ除去技術の全貌を明らかにすることが出来た。
この結果、レーダ観測からクラッタ除去を含む各種信号処理、レーダエコー図の表示及び遠隔伝送の全自動化が可能なディジタル方式MTI気象レーダシステムを完成することが出来た。