Papers in Meteorology and Geophysics
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原著論文
南極大気中のエーロゾルの性状と起源に関する研究
伊藤 朋之
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1983 年 34 巻 3 号 p. 151-219

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抄録
 気候変動への関与が懸念される地球規模大気汚染に関る知識を整備するために、1978年1年間エーロゾルの総合観測を南極昭和基地において行ない、その結果をもとに南極エーロゾルの性状と起源について考察した。
 測定の種目は雲形成や放射収支に関与するという意味で気象学的に重要なサブミクロン粒子について多面的な情報が得られるよう選定した。主な種目はエイトケン粒子 (半径2×10-7~2×10-5cm) 及びミー粒子 (半径2×10-5~2×10-4cm) の濃度と粒径分布、エイトケン粒子の揮発特性、電子顕微鏡下での粒子の形態 (半径2×10-6~10-4cm の粒子を対象)、であった。エィトケン粒子に関する測定には数百個cm-3程度の濃度を確率誤差±3%以内で測定できるように、従来のポラックカウンターに独自の改良を加えて試作した装置を用いた。上記のように多種目を同時に一年通して測定したことによって従来断片的知識しか得られていなかった南極大気中のサブミクロンエーロゾルの性状を系統的に把握することができた。
 主な観測結果として、(1) エイトケン粒子濃度の季節や緯度による違いは、大気が太陽から受ける光量の違いとよく対応していること、(2) 硫酸 (塩) や有機物のエーロゾルと同様に揮発性に富む粒子が、夏には多く冬には少ないこと、(3) ミー粒子の場合年間の大部分の期間中、濃度は北からの空気の混入量に従った季節変化を、また粒径分布は海氷域の北への張り出し距離に従った季節変化を、それぞれするものとみなすことができたが、太陽光の豊富な11~12月と2~3月の期間は、ミー粒子の小粒径端から粒子の補給があると解釈できる様子がみられたこと、(4) 電子顕微鏡下の形態により硫酸と同定できる粒子は夏から秋にかけて存在するが、冬から春にかけては存在しないこと、(5) 粒径分布は10-6cmに谷を持つbimodal分布が8~12月の期間中一般的に見られ、このことから南極対流圏内では、太陽光の存在する期間には少なくとも平均10-4個cm-3s-1程度の発生率で新粒子が発生すると推論できること、等が挙げられる。
 その他の結果も加えて、南極エーロゾルに関する得られた知見を以下のようにまとめることができる。すなわち、南極大気中に存在する粒子の内、半径10-6cmより小さい粒子は主として南極対流圏内で生じた光化学的二次粒子であり、10-6~10-5cmの粒子は南極及び周辺の大気中で発生し成長又は変質した粒子であり、10-5~10-4cmの粒子は一部は海塩粒子一部は二次粒子あるいはそれらの混合物である。南極対流圏内で発生し成長した二次粒子が南極エーロゾルの性状の主要部分を支配しているという本研究から導かれる結論は、地球規模のエーロゾル汚染の機構を考える場合、単に粒子の広域拡散というのではなく、気体状汚染質の地球規模拡散とそれに続く二次粒子生成といった過程が重視されねばならないことを示唆している。
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© 1983 気象庁気象研究所
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