Papers in Meteorology and Geophysics
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原著論文
海洋粒子状物質中のPOC/234Th比の意味
粒子会合への道筋
廣瀬 勝己
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2003 年 53 巻 4 号 p. 109-118

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抄録

 トリウム同位体の内、234Thは海洋表層の有機炭素移出フラックスの評価のためのトレーサーとして広く利用されている。原理は海洋に均一に溶存している238Uから生成する娘核種の234Thが、海水中の沈降粒子と結合して表層から除去されることによる。すなわち、238Uからの非平衡量を求めることで、234Thの移出フラックスを求めることができる。さらに、234Thと沈降粒子に含まれる炭素 (POC) の間の比が得られれば、炭素の移出フラックスを評価することができる。このとき、沈降粒子中のPOCと234Thの比が重要な係数となるが、海域によって、また時間によって変動していることが分かってきた。POC/234Th比が変動する原因を明らかにするために、海洋学的要素と比較したところ、一次生産と関連していることが分かってきた。さらに、錯形成モデルをPOC/234Th比に適用した結果、生産される植物プランクトンの大きさの変化が一次生産の大きさに関連しており、その変化の方向は海域によって異なっていることを示唆している。太平洋の赤道域では、一次生産が増加すればするほど、植物プランクトンの形状は小さくなる。一方、大西洋の中緯度域では、一次生産が増加すればするほど、植物プランクトンの形状は大きくなる。このような生態学的変化を引き起こす要因として、微量栄養素 (鉄) の濃度が関係している可能性がある。太平洋の赤道域の表面水では栄養塩は存在するが鉄が枯渇している。一方、大西洋の中緯度では、鉄は枯渇していない。微量栄養素を摂取するためには、体積/表面積効果により形状が小さいプランクトン程有利である。このため、本来一次生産が増加すると、植物プランクトンの形状が大きくなるべきものが、太平洋の赤道域では鉄の枯渇に適応して小さくなるものと推定される。さらに、赤道域では粒径が小さくなるにも係わらず、懸濁粒子として捕捉されるので、なんらかの会合体として存在することが推定される。この会合体が生成される機構についても錯形成モデルで考察した。

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© 2003 気象庁気象研究所
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