抄録
大気中の自然の風と風洞による模型風との間の相似の問題はこれまで多くの人々によつて取扱われて央たが,いまだに明確な結論は得られていないように思われる.その主なる原因の一つは,相似の条件の一貫した適切な取扱い方が充分にわかつていないことにあると思われる.そこで著者はこの点についても考えてみた.風洞による模型実験は,風洞自身に色々と制約があるために,時間的にも空間的にも限られた範囲の実験しか出来ないことは勿論であるが,しかし,一般に自然大気中では,分子粘性の項は渦動粘性の項に比較して小さいので無視出来,対象とする範囲が比較的狡ければ,コリオリスの力および静圧の変化も考慮しなくて済み,また風の強い場合には気層の安定度の影響も小さく,これも無視してよいであろう.従つて,ここに述べられるような限られた条件のもとに得られた結果でも,実用的な価値は十分持ち得ると考えられる.従来相似法則としては,既によく知られている如く,Reynolds numberを一致させればよいとの考え方があり, 自然風の相似の問題を取扱うに際しても,これとの類推により,分子動粘性係数の代りに渦動粘性係数を概き換えたReynolds numberを一致させればよいということが,例えば,井上などによつて提案されている.これは,結果的にはここで論じた結果と同じであるが,乱流構造の相似までは具体的に考えられていないように思われる.著者はまず,自然風と模型風のそれぞれについて,代表的な長さ,代表的な速度を用いて,無次元の変数および演算子を定義し,これらを用いて自然風の乱流場ならびに模型風の乱流場の平均流の運動方程式ならびに連続の方程式をいつれも無次元の方程式に書き換え,この両者の流れが相似になるためには,これらの無次元の方程式が同一の形を持つべきであると考え,そのようになるための条件を以て相似の条件とした.その結果,両者の時間スケールの間には〓〓なる関係がみたされ,且つ,両者のEddy Reynolds numberを合わせればよいという結果を得た.得られた結果は井上などによつて提案された相似の条件と同じであるが,このような取扱い方をすれば,色々な場合(例えば,垂直方向と水平方向とで縮率が異なつている模型についての実験など)について相似の問題が近似的ではあるが,比較的容易に比較的明確に取扱えると思われる.尚,井上は,Eddy Reynds numberを合わせるという条件のうえに,更に,乱れの強さを合わせるという条件を付け加えoてlいるが,これは,Eddy Reynolds numberを一致させることと同じ意味を持つものと考えられる.ここではこの点も明らかにされた.しかし,Eddy Reynolds numberを一致させるという相似の条件も,このままの形では,模型実験を行うに際して何等具体的な方法を明示出来ないように思われる.それは,Eddy Reynolds numberの中に含まれている渦動拡散係数が今まで容易に決められなかつたからである.そこで,更に,この点について考え,最近の乱流の相似理論によつて得られた関係を用いて渦動拡散係数を平均渦のスケールに関連させて決め,従来殆んど考慮されなかつた両者の乱流構造の相似まで考慮してEddy Reynolds number一致の条件から,風速の縮率と模型の縮率との間の関係として, 〓〓なる関係を導いた.同時に,また,単なるMean flow patternのみの相似と,乱流構造の相似まで考慮したMean flow patternの相似との間の相違を明らかにした.更に,温度成層のある場合の流れの相似の条件として,自然の場合の流れと模型の流れの対応する2高度間の温位差,模型の縮率,風速の縮率の間には,近似的に,〓〓なる関係のあることを理論的に導いた