抄録
西南太平洋のフィージー群島附近は深発地震の活動の最も激しい地域である、合衆国沿岸測地局によれば,1959年7月から1961年3月迄の期間に深さ300km以上の深発地震141ケがこの地域に起つている。松代地震観測所に設置した短周期上下動の地震計は70度の震央距離にありながら驚くべきことにこのうち112ケを記録した。この記録の解析によつて次のことが結論される。
(1) 遠距離でも深発地震は浅発に比べてよく記録される。これはP初動附近の時間当りのエネルギー密度が高いためと思われる。
(2) マントル伝播中,地震波のスペクトル構造は殆んど変らないと考えられる。従つて記録さえあれば,深発に関する限り遠距離からでも震源の状態を調べることができる。
(3)深発のP初動附近は短周期が卓越して,之の周期はMによつてあまり変化しない。
logT0=-0.80+0.10M
(4) この卓越周期から推察すると,浅発に比べて震源半径は小さく,エネルギー密度は高いことになるが,深さ500kmの高温,高圧下では可能と思われる。
(5) 深発地震の記象は初動直後に最大動が現れ,その後急に減衰するという特徴をもつている。この特徴は深さの減ずると共に失われてゆく。
(6) M別の発生頻度をみると,M=6以下ではM>6.5のところのようには頻度が増加していない。これは日本附近の深発について見られたことと一致している。
日本附近の深発とフィージー群島附近の深発は種々の点で同一の性質をそなえているようである。日本には直接P波のとどかない南米の深発,また太平洋地域でも更に小さな深発を調査するために,震央近くでの観測が極めて望ましい。