抄録
低緯度準地衡風波動に適用される方程式系をスケール・アナリシスの方法で導いた.ここに低緯度とはsinψ の大きさが10-1のオーダーの範囲で,ほぼ緯度5° から20° の緯度帯に相当する.対流圏,成層圏の長波と超長波の四つの擾乱を取上げた.それらの一般的特徴は次のようである、渦度方程式は初めは順圧予報式となる.精度をあげると,それは傾圧予報式となるが,最初の傾圧性は非断熱効果のみによっており,したがって,非断熱効果を取去れば順圧予報式と同じになる.中緯度の力学的効果による傾圧性とは性質が異るようである.中緯度では第一近似の渦度方程式は気圧場の予報式になるが,低緯度では第一近似から流線場の予報式である.発散方程式から導かれるすべての式は,たとえ発散の時間変化項が含まれていても発散の予報式ではなく,常に初期値として与えられる流線場と非断熱効果とから気圧場を求める診断方程式である.これは中緯度と全く逆の関係である.熱の式も,たとえ温度の時間変化項を含んでいても温度の予報式ではなく,垂直運動の大きさを見積るための診断方程式となる.その第一近似は簡単かつ従来扱われたことのない型となる.すなわち,その中の最大項は常数安定度を係数とする垂直運動の項と非断熱効果の項で,最初にこの二つの項が釣合う.非断熱効果と垂直運動とは直接結びつけられ,大気に与えられる非断熱効果は温度場の変動に寄与することなく,そのまま垂直運動を起すエネルギーに変換されることを示している.このスケール・アナリシスで導かれるどの方程式系も,それを解くには初期値として流線場と非断熱効果の二つの量を与えなければならない.長波,超長波それぞれの特徴は次のように述べられる.長波に関しては,風はパランス方程式を満足しなければならないので地衡風ではなく,その東西,南北両成分とも大きさは10m・sec-1のオーダーであることが許される.一方,超長波に関しては,風の東西成分の大きさは10m・sec-1のオーダーである.しかし,南北成分の大きさは最大で1m・sec-1のオーダーでなければならないし,その大きさは常に連続の式から求められねばならない.すなわち,連続の式は風の南北成分を求める診断方程式である.風の東西成分の最初の近似は地衡風である.南北成分の第一近似では,その廻転部分は地衡風であるが,非断熱効果のみによる発散部分も含んでいる.
低緯度準地衡風波動の特徴を一口で言うならば,スケール・アナリシスの精度の面から風の場に対し気圧場が追随すること,および低緯度擾乱は本来順圧波動であるが,非断熱効果は温度場との相互作用を通さずに直接擾乱の変動に影響を与えることであろう.