地殻歪には永年変化と地震に伴う急激な変化の2種類があり,前者は地震エネルギー蓄積状態,後者は地震発生のメカニズムに関する重要な情報を与えるものである.歪変化の連続観測には従来5~100mの長さの水晶棒,あるいは特殊金属棒を本体とする伸縮計が用いられてきた.しかしこれらは,きわめて変化速度の遅い永年変化に適しているが,地震に伴なう急激な歪変化の観測値はあまりにも大きな分散を示し,その中のある値については理論では到底説明のつかないほど大きな値を示している.われわれはこれを,伸縮計の構造とその設置方法が地震時の急激な加速度に対して持つ“弱さ” にあると考え,この弱点を持たない新型の歪計を開発し,地震の多発地帯に設置して満足すべき結果を得た.
Fig.2に示す通り,シリコン油で充たされたステンレススティール製の円筒を,岩盤中に堀られた深さ55mの孔底に,固まると膨張する特殊なセメントでもって固定し,周囲の岩石と一体化してしまう.円筒の上部には隘路とセンサーが設けられている.岩石に容積変化の歪が発生すると,円筒はそれに従って変形するため,シリコン油は隘路を通ってセンサーに押し出され(あるいはその逆),その量が精密に測定され,10
-10の精度をもって歪に応じた電気的出力が得られる.大きな長所は,シリコン油の持つ圧縮性と隘路の持つ流体抵抗によって液体系のフィルターを形成し,センサーを大きな短周期の加速度から防護していることである.
この新歪計を松代地震観測所の構内に300m離して2本,さらに3本目を15km離れた長野市大峰山の,東京大学北信微小地震観測所の観測坑附近に設置した.記録はテレメータにより全部松代で行っている.Fig.3に示したのが,ほとんど真南にあたるニューギニアで発生した地震について,歪計と周期30秒の地震計の記録の比較である.P波,反射時にP波を発生するSV波,およびレーリー波は歪計によく現われている.一方,SH波であるラブ波(発震後9分)は,地震計の記録で震源方向に直角の向きを持つEW成分には非常に大きく記録されているが,この波は当然のことながら反射しても容積歪を生ずるP波を発生しないので歪計の記録には現れていない.
この歪計を設置して以来,松代の100m水晶棒伸縮計はいくつかのいわゆるストレイン・ステップを記録したが,新歪計ではそれらしきものは無いか,あっても約10分の1程度である(Table.3).
さらにこの歪計が設計通り加速度に強いことを試験するために,周囲の岩石も含めた実際の観測状態で爆破による衝撃試験を行なった.測器より実距離46魚離れた5mの爆破孔中で,50 grmより最大1.6kgにおよぶ異った量のダイナマイトを爆発させ,最大気象庁震度Vに相当する加速度を加えたが,岩石の破壊より期待される各薬量に見合った最大6×10
-9のストレイン・ステップを記録したのみで,何んら不合理な反応はなかった.
今後の観測の進行と共に,300m離れた2地点で歪の変化に差があるか,15km 離れた点の測器で地震に伴なう歪変化の距離による減衰はどうか,永年変化について100m水晶棒の伸縮計を基準とした時の比較はどうなるか,等の問題が明らかにされよう.
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