日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第51回大会
セッションID: E5
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第3会場
日本新産のMortierella tuberosaおよびその類縁菌について
*出川 洋介
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抄録

Mortierella tuberosaはvan Tieghemにより1875年に記載されたMortierellaSimplex節の一種で,同属中,最も大型の胞子嚢柄を形成し,ケカビ属に類する外観を持つ特異な種である.1994年以後,長野県,神奈川県の動物糞(ネズミ類,ホンドタヌキ)より分離された菌株は,原記載及びOu (1940)の記載にもよく一致し本種と同定された.
2005~2006年にかけて神奈川県丹沢大山地域の微小菌類調査において,西丹沢(山北町)のニホンジカの糞よりM. tuberosaに類する菌が複数検出された.これらは,湿室内の糞表面で強く屈曲した胞子嚢柄を生じ,胞子嚢壁が容易に溶解しない特徴を持つ.胞子の発芽は遅く,低温下で長期を要したが通常の培地上で容易に生育し,培養検討の結果M. tuberosaとは,1)胞子嚢胞子のサイズがより小型,2)胞子嚢柄の屈曲が顕著,3)栄養菌糸体上のベシクルの形状,4)コロニー形状,において明瞭に区別されることが明らかになった.
現在Mortierella属にはこれらの特徴を有す既知種は知られないが,Schroeter (1897)により設立されたHerpocladiella属(H. circinans 一種を含む)は胞子嚢柄が強く屈曲する点で類似している.同属は胞子嚢に柱軸を欠くことから,従来の接合菌類の総説では,いずれもMortierella科に類縁としつつもステータスの不明な属とみなされてきた.Schroeterの原記載は図版を伴わず,短い記載文のみによるが,Naumov (1939)はHerpocladiella属をMortierella科に認め,胞子嚢柄上部の形状を図示している.同属は胞子嚢柄が分枝を示す点で本菌と一致しないが,本菌の胞子嚢柄は天然基質や培地上で倒伏した際に二次的に分枝して立ち上がることがある.胞子嚢胞子のサイズその他の点においては,本菌はNaumovの記載に類似することから,丹沢山地産菌株はHerpocladiella circinansに近縁なものと考えられる.

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© 2007 日本菌学会
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