日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第53回大会
セッションID: S2
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日本産ネクトリオイド菌類の分類学的研究
*廣岡 裕吏
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抄録

子嚢菌門,ボタンタケ目に所属するネクトリオイド菌類は,直径約0.3mmの色鮮やかな子嚢殻(子実体)を形成する微小菌類の1つである.ネクトリオイド世代はテレオモルフ(完全世代・有性世代)であり,アナモルフ(不完全世代・無性世代)には,AcremoniumCylindrocarponCylindrocladiumFusariumGliocladiumTuberculariaVerticillium等がある.これらはいずれも,樹木や農作物等の植物の衰退,時には重大な被害をもたらす植物寄生菌として重要である.また,非植物寄生性ネクトリオイド菌類として,植物病原菌に寄生する菌寄生菌や,カイガラムシ・アブラムシ等の害虫に寄生する昆虫寄生菌,デオキシニバレノールやゼアラレノンといった人畜に悪影響をもたらすカビ毒生産菌,セファロスポリン系やシクロスポリン等の有用活性物質生産菌が含まれ,経済的にも重要な菌群である.さらに,Gibberella fujikuroiのようにジベレリン発見の契機となった種も存在している.しかし,日本を始めアジア各国におけるネクトリオイド菌類の分類学的研究に関する報告は少なく,欧米に比べてたち遅れた状態にある.そこで,本研究では,最新の分類体系を基に日本産ネクトリオイド菌類の分類学的検討,さらに新たな類別法の模索を行い,最終目標としてわが国における本菌群のモノグラフ作成を試みた. その結果,本研究では2科16属57種555菌株のネクトリオイド菌類を採集,分離,同定した.これらの中には, 1新属,11新種,日本新産22種(未発表も含む)が含まれていた.また,過去に採集された日本産ネクトリオイド菌類を再検討し,42種について異名処理を行った.新たな類別法については,日本固有種であるNeonectria castaneicolaと広域分布種であるNeo. rugulosaを用いることにより,子嚢内子嚢胞子保有数の違いによる新たな類別法を発見した.本研究では,さらに植物病原菌,害虫に対し病原性の強い寄生菌もいくつか発見され,本菌群の生物資源としての重要性を追認した.これらの結果から本研究は,菌類学だけでなく植物病理学,森林病理学,作物保護学などにおいても重要な知見を得られたものと考える.

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© 2009 日本菌学会
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