抄録
【目的】ヒナノシャクジョウ科の植物はいずれも光合成を行わず,菌根菌から有機炭素を得て生育する菌類従属栄養植物である.日本に自生するキリシマシャクジョウの菌根菌については,すでに寺下・川上(1991)によりAM菌であることが明らかになっているが,日本産ヒナノシャクジョウ科の菌根菌について分子レベルで特定を試みた報告はない.そこで,本研究では キリシマシャクジョウ,シロシャクジョウおよびルリシャクジョウの菌根菌について分子レベルでの特定を行った.
【材料と方法】 キリシマシャクジョウは2集団(鹿児島県湧水町と垂水市)から16個体,シロシャクジョウは2集団(鹿児島県湧水町と屋久島町)から12個体,ルリシャクジョウは1集団(鹿児島県屋久島町)から3個体を採取した.採取した植物体の根組織からDNAを抽出し,菌に特異的なプライマーを用いて核DNAリボソームRNA遺伝子SSU領域を増幅した後,得られた塩基配列をGenBankの既知データと比較することで,菌の種類を特定した.
【結果及び考察】 それぞれの植物体の根から得られた菌の配列はすべてGlomus group A に属した.キリシマシャクジョウ2集団から得られた菌根菌の塩基配列は全て同じであり,またルリシャクジョウにおいても全て同一であった.シロシャクジョウ2集団からは4タイプの塩基配列が検出されたが,それぞれ98%以上の相同性があった.シロシャクジョウ,ルリシャクジョウおよびキリシマシャクジョウから得られた配列間での相同性は93%~95%であった.ルリシャクジョウとシロシャクジョウの1集団(屋久島町)は同一場所に混在していたが,菌を住み分けていた.以上のことから,3種のヒナノシャクジョウ属植物における菌根菌の種特異性は非常に高いと考えられる.