抄録
鳥取砂丘は,鳥取市の日本海側に面した日本最大の海岸砂丘であり, 砂丘植物の典型的自生地としての価値は極めて大きいものである. しかしながら, 鳥取砂丘において, 草本植物の感染形態をはじめとする菌根菌の感染実態に関する報告はなく, 不明である。そこで鳥取砂丘の一部である鳥取大学乾燥地研究センター内の海岸砂丘を調査地とし, 砂丘草本植物におけるアーバスキュラー菌根の感染形態を細胞学的に調査した.
調査地において植生調査を行い, ウンラン(Linaria japonica), オニシバ (Zoysia macrostachya),ケカモノハシ (Ischaemum anthephoroides), コウボウムギ (Carex kobomugi),ハマグルマ (Wedelia prostrata), ハマニガナ (Ixeris repens), ハマニンニク (Elymus mollis), ハマヒルガオ (Calystegia soldanella), ハマボウフウ(Glehnia littoralis)の9種類の砂丘草本植物を同定することができ, これら植物の採取を行った. 定法に従って植物根内のアーバスキュラー菌根の組織を染色して, アーバスキュラー菌根形成の有無を調査し, 感染形態やアーバスキュラー菌根特有の組織の観察を行ったところ, 調査した植物種の全てにおいてアーバスキュラー菌根の形成が認められた. さらに, 非菌根性あるいは菌根形成頻度が低いとされているカヤツリグサ科のコウボウムギの根にも樹枝状体の形成が認められ, アーバスキュラー菌根の構造が観察できたことから, アーバスキュラー菌根菌は調査地の植生において普遍的に存在することが示唆された. また, ハマヒルガオ, コウボウムギでは菌根形成率, 感染率ともに低く, これら植物は菌根依存性が低いと推測された.