抄録
Polyporus pseudobetulinusは, 北アメリカ大陸やユーラシア大陸の亜寒帯域に分布し, 一般的にポプラ属種(Popurus spp.)の枯死木又は生木上に発生する白色腐朽菌である. 本種の特徴は, 子実体は有柄, 菌糸組成は生殖菌糸と骨格結合菌糸からなる2菌糸型で, クランプ結合を欠く生殖菌糸を有することである. 日本では同じく亜寒帯域の北海道に分布するものの, ポプラ属種上ではなく, ヤナギ属種(Salix spp.)から本種が報告されている. さらに北海道からはヤナギ属上に発生する本種に類似した菌が採集されているが, 後者は, 生殖菌糸にクランプ結合を有する点が前者と異なる.
今回演者らは, 日本産P. pseudobetulinus複合種について, 形態的特徴及び核DNAITS及びLSU領域に基づく分子系統解析による分類学的研究を行った. 本研究では, 北海道の各地より採集されたP. pseudobetulinus複合種6標本, カナダ産P. pseudobetulinus標本及び類似種P. subvariusの基準標本を用いた.
分子系統解析の結果, 国内産P. pseudobetulinus複合種には2つのグループが存在することが明らかになった. そのうちの1グループは, カナダ産P. pseudobetulinusと同一クレードを形成し, これらは傘表面が黄白色で時に皺を有し, 肉質はもろく, 生殖菌糸はクランプ結合を欠くなど, 形態的特徴が一致していた. もう一方のグループは, P. subvariusの基準標本と同一クレードを形成し, 傘表面は灰色で, 強靭な肉質を有し, クランプ結合を有する生殖菌糸を持つなど形態的特徴が一致していた. 本研究の結果, 両者は系統的・形態的に別種であり, また, 日本には両種が分布していることが明らかになった.