抄録
ホウキタケ属(Ramaria)は珊瑚状~箒(ほうき)状の子実体を形成する担子菌門(Basidiomycota),ラッパタケ目(Gomphales)に所属し,世界で500種以上,日本では20種余りが報告されている.近年,分子系統学的手法を用いた分類学的研究が行われるようになり、ホウキタケ属が側系統の分類群であることが明らかとなった.しかし,系統的類縁関係に基づく再分類は未だなされていない.また,これまで日本産ホウキタケ属の中には疑問種も含まれており,さらに,報告されていない多くの未同定種の存在も知られている.本研究では,日本産のホウキタケ属について,その実態を明らかにするため,全国各地より採取した本属子実体標本について,各標本の肉眼的,顕微鏡的特徴を詳細に記載するとともに,生態学的特性(菌根形成の有無,菌根形態,基質,発生時期など)を調査した.さらに,分子系統分類学的解析のため,核の大サブユニット25S rDNA,ミトコンドリアのatp6遺伝子領域の塩基配列に基づく系統解析を試みた.その結果,Ramaria botrytis comp. 1,Ramaria botrytis comp. 2,Ramaria cyanocephala comp. 1,Ramaria cyanocephala comp. 2,Ramaria cf. botrytoides,Ramaria cf. conjunctipes,Ramaria cf. subdecurrens,Ramaria cf. myceliosa,Ramaria cf. longicaulisなど,既知の分類群に類似する種,およびRamaria sp. 1(地方名:シロネッコモダシ),Ramaria sp. 2(地方名:コノミタケ)など,新種の可能性がある分類群を見出した.また,今回用いた遺伝子領域の解析の結果,従来のホウキタケ属は,ガウチエリア属(Gautieria;地下生菌),ラッパタケ属(Gomphus;アンズタケ型菌類),スリコギタケ属(Clavariadelphus;棍棒型菌類)およびレンタリア属(Lentaria;ホウキタケ型菌類)をその内部に含むこと,また,ホウキタケ属を,ラマリア亜属(subg. Ramaria),ラエティコロラ亜属(subg. Laeticolora),レントラマリア亜属(subg. Lentoramaria)およびエキノラマリア亜属(subg. Echinoramaria)の4つの亜属に分ける分類は支持されないこと,さらに、従来のラッパタケ属は少なくとも2つ以上の属に分割する必要があることが明らかとなった.