抄録
葉圏菌類(葉面菌+葉内生菌)の多様性調査は従来,分離・培養・形態による同定により行われてきた.この手法には人為的,技術的バイアスがかかるため,各報告の結果の違いが何によるものかを正確に評価することは難しい.実際に東北,関東,関西における過去のブナ内生菌の報告では,場所により優占種に違いがみられ,これが場所によるものかそれとも手法によるものか不明なままである.本研究ではブナ葉圏菌類相を厳密に比較,評価するために,従来の分離・培養による手法と分子生物学的手法で葉圏菌類の多様性プロファイルを作成し,葉圏菌類の生息実態解明のための予備的調査を行った.5月,7月,9月に京都,北茨城,安比の各地域からブナ葉を各20枚採取し,10枚を分離・培養に,残り10枚をDNA解析に用いた.分離培養には破砕機で100mlの滅菌蒸留水とともに葉を約2mm3以下に破砕し,ローズベンガル入り1%MAに懸濁液1mLを塗布した.20℃で3ヶ月間培養し,その間に生育してきた菌糸を2%MAに移植し,培養菌株を得た.同定は形態,DNAにより行なった.一方,残りの10枚は1枚ごとに液体窒素で破砕し,抽出・精製した.その後,菌類のSSUrDNA特異的プライマーを用いてDGGE,T-RFLPにより葉圏菌類の多様性を遺伝的に解析した.その結果,分離・培養による手法で,ブナ葉圏菌類のうち最も優占して存在したグループはMycosphaerella属菌などCapnodialesであった.またPestalotiopsis属も比較的高頻度に出現した.また採取場所ごとの違い,季節的な違いがあることが明らかになった.DGGE,T-RFLPの結果でも,採取場所,季節による菌類相の違いが確認された.DGGEにより得られたバンドを切り出して得られたシーケンスデータでもMycosphaerella,Pestalotiopsisが検出されたが,分離・培養による手法と比較して検出される種数は限られていた.また,ブナ葉DNAやそこに関連する節足動物のDNAも検出していた.今回のDNAによる手法では検出したものが菌類ではない可能性があり,分離による手法では葉圏菌類の頻度を過大評価する可能性がある.本研究は環境省の地球環境研究総合推進費革新型(RF-086)の支援により実施された.