抄録
Lophiosotma bipolare (クロイボタケ綱, プレオスポラ目) は草本・木本植物に生じる淡水生子のう菌類として知られ, 流水域・止水域から氾世界的に報告されている. 本菌は紡錘形子のう胞子の両端に突出した粘性付属糸をもつことと淡水生であることにより特徴付けられ (Hyde 1995, Nova Hedwigia 61: 119), 同様の特徴をもつ淡水生のL. frondisubmersum や汽水生のL. armatisporum とは, 主に子のう胞子の大きさにより区別されている. 子のう胞子にみられる両端突出型付属糸は, 水環境に適応した結果として一般的に考えられている. しかし我々の調査において, 淡水域に加え陸上の植物基質からもL. bipolare 類似菌が多数発見されていることから, その分類学的・生態学的意義について再考する必要がある. また本研究で得られたL. bipolare 類似菌は, 子のう胞子計測値が多様であることからL. bipolare を含む複数種からなると推測される. そこでL. bipolare の定義を明確にし, 類縁種との形態的差異および系統関係を明らかにすることを目的として, L. bipolare 類似菌15 株について, 形態比較と28S およびITS-5.8S nrDNA 領域に基づく分子系統解析を行った.
その結果, 15 株のうち5 株はL. bipolare と同定された. 本種は従来知られていたように淡水域のみに生息するわけではなく, 陸上植物体上にも生息していることが示された. 一方で, 本種と非常に類似した形態的特徴をもち淡水生であるにも関わらず, L. bipolare とは別系統と考えられる株も存在した. 10 株は少なくとも6 種からなることが示唆されたが, これらの種と生息場所や植物基質との関連性はみられなかった. これら類似菌については, 子のう胞子計測値の微妙な違いも考慮し分類する必要があると考えられる.