日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第55回大会
セッションID: C32
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特異的プライマーを用いたPCR解析によるサクラソウに寄生するクロボ菌の植物内での挙動の解明
*紙谷 幸子大澤 良柿嶌 眞
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抄録
サクラソウ(Primula sieboldii)は日本各地に自生しているが,近年は自生個体数が減少し絶滅危惧種となっている.クロボ菌の一種であるUrocystis tranzschelianaが感染したサクラソウでは,最初に,葯の柄の部分に白色の酵母状の分生子が多量に形成される.このため,感染株では花の形状に変化が見られるという報告もあり,花の形成が何らかの影響を受けていることも推測される.その後,本菌は子房内で増殖し,果実が成熟する時期には,胞子が子房内に多量に形成される.感染固体は毎年,同様の胞子形成が認められるが,枯死することはない.本菌により,子房が破壊されるため,サクラソウの感染株では種子を作ることができない.サクラソウは種子による繁殖だけでなく,クローン成長によっても繁殖することができるため,本菌の感染がサクラソウの個体数の減少に直結しているとは考えられないが,有性生殖を阻害するため,サクラソウの自生集団の遺伝的多様性が減少する可能性もある.感染した個体群では毎年感染が認められるが,個体数の減少は認められず,逆に栄養生長が促進されるという報告もあることから,両者が生態的共生関係にあることも考えられる.しかしながら,両者の相互関係は未だ不明のままである.サクラソウ個体群の保全という観点からも,両者の関係を早急に解明する必要があるが,このための基礎的知見である本菌の感染経路やサクラソウ体内における挙動は未だ明らかになっていない.
 本研究では,本菌に感染しているサクラソウを用いて,その体内における本菌の存在部位と挙動を,本菌のrDNA配列から設計した特異的プライマーを用いたPCR解析により,明らかにすることを試みた.
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© 2011 日本菌学会
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