日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第55回大会
セッションID: A28
会議情報

南西諸島のオヒルギに定着するツブキクラゲにみられる遺伝的変異と分布パターン
*広瀬 大白水 貴
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

近年,南西諸島における系統地理学的研究は様々な生物種で盛んに行われており,種分化プロセスと地史的イベントとの関連性について興味深い知見が多く得られている.菌類に関しては研究例が殆どないのが現状であったため,演者らは手始めとして,オヒルギ (Bruguiera gymnorhiza) の腐朽木に定着するツブキクラゲ (Tremellochaete japonica) を材料に遺伝的変異とその地理的分布パターンに関する研究を行うことにした. 2010年11月に,奄美大島 (住用),沖縄島 (慶佐次),宮古島,石垣島 (宮良川, 吹通川),西表島 (仲間川, 浦内川, 大見謝, 古見, 船浦) の計10地域のオヒルギ自生地において本種と思われる子実体を採取した.実験室に持ち帰り,形態観察による種同定を行った後,分離培養した.得られた培養菌株からDNA抽出後,rDNAのITS領域の塩基配列を決定することにより遺伝的変異を評価した. 合計113子実体試料を採取することができ,そのうち104試料の分離菌株を得ることができた.これらの菌株の塩基配列には,22サイトで多型がみられ,塩基配列の違いに基づく19のタイプが確認された.沖縄島以南の島では,島間で共通するタイプがみられた一方,宮古島,石垣島及び西表島と奄美大島との間では共通するタイプは一つもみられなかった.塩基配列の違いに基づくタイプにみられたこの様なパターンは,南西諸島に定着している本種の分布形成プロセスに,胞子による長距離分散以外に地史的な要因も関与している可能性を示唆している.

著者関連情報
© 2011 日本菌学会
前の記事 次の記事
feedback
Top