日本菌学会大会講演要旨集
日本菌学会第55回大会
セッションID: C1
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北海道襟裳岬海岸においてエゾシカとエゾヤチネズミが運搬しているクロマツの外生菌根菌
*橋本 靖島本 繭
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抄録
北海道襟裳岬の海岸砂丘において,宿主樹木がいまだに定着していない場所の砂質土壌中に存在する外生菌根菌の種構成と,その侵入のメカニズムを,特に野生哺乳類による運搬に注目して調査した.外生菌根菌感染源の移動要因推測の手がかりとするため,感染源の供給元と考えられるクロマツ植林地からの距離を変えた3ヶ所の調査地から砂質土壌を採取し,実験室に持ち帰った後に無菌発芽させたクロマツ実生を植え付け,形成された外生菌根の有無と菌の種構成を調査した.また,各調査地上で散見される野生シカの糞を採集し,その懸濁液をクロマツ実生根系部に接種することによって,糞に含まれる外生菌根菌種を明らかにした.更に,調査地周辺で生息する野生ネズミ類の糞を得るため,同地にトラップを仕掛けてネズミ個体を捕獲し,その糞の回収を行った.これらの糞も,同様に糞中に含まれる外生菌根菌種を明らかにした.それぞれの実験で形成された外生菌根は,DNAの解析によって菌の種同定を行った.その結果,樹木の生育しない海岸土壌の約91%で外生菌根菌が検出され,Rhizopogon sp. #1が最も優占し,また,Suillus属の4種も多く出現した.3ヶ所を比較すると,クロマツ植林地から遠い場所で外生菌根菌の検出量が下がり,特にRhizopogon sp. #1の割合が減少する傾向が見られた.一方で,エゾシカの糞からは採取した全サンプルのうち,約17_%_から外生菌根菌が検出され,その種は土壌中からも出現したSuillus属の3種とRhizopogon sp. #1によって占められていた.また,エゾヤチネズミの糞では,秋に捕獲した全15個体のうち4個体の排泄した糞から,Rhizopogon sp. #1一種のみが検出された.以上から,宿主樹木の生育ない海岸の土壌中に存在する外生菌根菌は,エゾシカやエゾヤチネズミがきのこを採食し糞を排泄する過程で,感染源の運搬要因として働くことにより,維持されている可能性が示唆された.
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© 2011 日本菌学会
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