抄録
前号で紹介したエネルギー表示の理論を、電子の密度汎関数理論(DFT)をベースとするQM/MM法と結合する方法(QM/MM-ER)を解説する。QM/MM-ER法により、効率良く正確に凝縮系の化学反応の自由エネルギーを計算することが可能となる。前号で述べたとおり、エネルギー表示の理論を含む溶液論では溶質—溶媒間の相互作用が2体的であることを前提としているので、QM/MM系のような多体の相互作用を含む系を扱うには何らかの工夫が必要である。本方法の要諦は、QM 系の溶質の電子密度がある空間分布n(r)に固定された中間状態を経由することにある。これによって、溶質の溶媒和自由エネルギーを2体的な相互作用による寄与と溶質の電子分極による多体的な寄与とに分割する。2体的な寄与については標準的なエネルギー表示の理論が適用可能であり、多体の寄与もエネルギー表示の理論の枠組みで計算することが可能である。