抄録
イオン液体と分子性液体(一般の有機溶媒)の大きな違いは緩和の時間スケールとその関数形にみられる.分子性液体中における緩和は単一の指数関数(デバイモデル)でよく近似できるのに対して,イオン液体中では,短い時間スケールの速い緩和とそれより数桁遅い緩和が共存する.本研究では,溶媒が電荷をもつことによって,なぜ緩和の関数形が大きく変化するのかを分子動力学シミュレーションによって理解することを試みた.シミュレーションからは,電荷をもつ溶媒,すなわちイオン液体中では,分子全体の回転運動が,分子内のローカルな運動に比べて著しく減速されることで,遅い運動と速い運動が混合した緩和過程を示すことが示唆された.