抄録
分子動力学 (MD) シミュレーションは, 計算機能力の向上, 全原子力場モデルの精巧化, および方法論の成熟によって, 脂質二重層膜の物性を議論する上で不可欠な手法となっている. 本研究ではマウス胸腺細胞およびその癌化細胞の細胞膜について両者の膜の物性の違いを明らかにするために, それぞれの脂質組成を精密に模倣した混合脂質二重層膜を対象に温度, 静水圧一定条件のもとで200 ns の全原子分子動力学計算を行った[1]. 癌化膜は正常膜にくらべ側方向により広がった柔らかい構造をもち, リン脂質アシル鎖尾部および側方脂質分子配置がより乱れることで, より高い膜流動性を持つことを明らかにした.