抄録
本稿では,最近,著者らが開発したSynchronized Molecular Dynamics(SMD)法[S.Yasuda and R. Yamamoto, Phys. Rev. X 4, 041011 (2014)] についての解説とそれを用いて2 平板間の高分子液体の潤滑挙動を解析した結果について紹介する.SMD 法では,多数の分子動力学(MD)セルを流体の要素に割り当て,各流体要素おける局所的な物理量をMD 法によって計算する.しかし,ある一定の時間間隔で,システム全体のマクロ物理量(エネルギーや運動量)の輸送方程式が満たされるように,隣接するMD セル間において運動量とエネルギーの交換を行う.これによって,任意の分子モデルを基に,巨視的な移動現象を解析することができるようになる.SMD 法による高分子潤滑の解析では,潤滑中に生じる粘性発熱が高分子液体のレオロジー特性と内部構造にどのように影響するのかを詳細に調べている.せん断流・発熱・内部構造が強く相互作用した結果として,高分子鎖の挙動において,せん断変形が支配的となる領域と温度上昇が支配的となる領域との間に,興味深い転移挙動があることが明らかにされた.