2021 年 23 巻 2 号 p. 121-126
酵素の構造揺らぎは酵素反応の活性に重要であるが,実際に酵素の運動が化学反応にどのように関与するのかは明らかでない.我々は,プロリン異性化酵素Pin1 が触媒する異性化反応の静的(自由エネルギー面上の反応経路)および動的(遷移経路)機構の解析を行い,2 つの経路の違いと構造励起状態の重要性を見出してきた.今回,交差エントロピーの最小化法を用いて2 つの反応経路を特徴づける反応座標を調べた.その結果,静的な反応経路では様々な基質−酵素相互作用が関与しているのに対して,遷移経路では局所的な座標が顕著な寄与を果たしていることが分かり,2 つの経路の違いを特徴づける分子機構が見えた.