2022 年 24 巻 4 号 p. 205-214
近年,細胞質や核に存在する膜なしオルガネラを形成する生物相分離とその生物学的機能が注目されている.液体状の凝集体は,一般に球状の液滴として形成される.一方,最近,タンパク質顆粒,局在体,中心体集合体など,ネットワーク状の形態を持つ様々な凝集体が細胞内で発見された.したがって,何が細胞内相分離の相分離形態を制御しているのか,またその形態が生物学的な機能とどのように関わっているのかは重要な基本的問題であるが,いまだ解明されていない.ここでは,ソフトマター物理学における粘弾性相分離の知見に基づき,2 相間の分子ダイナミクスの差が相分離により形成される凝集体の形態を制御している可能性について議論する.具体的には,2相間の移動度の差が小さいと液滴状,大きいと遅い相が少数相であってもネットワーク状の形態をとることが予想される.特に,非構造化高分子(メッセンジャーRNA など)が2相間で非対称に分配されることで,相間の動的非対称性が高まり,遅い相のネットワーク状パターンが形成され,それがさらに高分子間結合によって安定化される可能性があることを示す.また,生物学的反応や力学的機能面から見たネットワーク状の相分離形態の持つ特性についても考察する.