2025 年 32 巻 434 号 p. 8-14
山梨県の特産品にアワビの醤油煮である「煮貝」がある.アワビの煮貝に使用された貝殻のほとんどは産業廃棄物として廃棄されている.貝殻は無機化合物と有機化合物の複合体であり,前者は炭酸カルシウム(CaCO3),後者はタンパク質(コンキオリン)である.SDGsに基づきアワビ貝殻の再利用の可能性を検討するために水熱反応を利用したアワビの貝殻の化学変換を試みた.本研究で用いたアワビの貝殻の炭酸カルシウムは大部分がアラゴナイト型でわずかに方解石型が含まれていた.アワビの貝殻は粉砕や加熱などの処理を行わないでNaOH溶液とNH4H2PO4溶液を用いて水熱処理を行った結果,アラゴナイト型と方解石型の二相からそれぞれ方解石型CaCO3とアパタイト型Ca10(PO4)6(CO3)の単相に変換され,それに伴い有機成分が放出されることがわかった.どちらの場合もアワビの貝殻の形状は水熱反応中に維持されていた.これらの水熱反応による物質変換は太陽光水熱反応でも観察された.