抄録
エルゴステロール(ERG)は真菌の細胞膜の構成成分の一種であり,多くの植物や動物はERGを産生しないことから,ERGは穀物中のかび加害のバイオマーカーとして考えられている.以前,私達はメタノールとアルカリ溶液を用いたけん化方法による穀物中のERGの分析法を開発し,その妥当性を確認した.しかし,けん化による分析法は時間やコスト,手間がかかるため,迅速さが求められるスクリーニングには適していない.そのため,私達は穀物中のERGの分析法の簡易化を試みた.ERGはメタノールで一時間振とう抽出し,ろ過後,ERGは液―液分配にてヘキサンに転溶し,逆相HPLCで分析した.振とう法によるERGの回収率をけん化法によるERGの回収率で比較した.3mg/kgのERGのトウモロコシサンプルにおける振とう法による回収率はけん化法による回収率の84%で,振とう法による相対標準偏差(RSD)は1.5 %であった.また,12mg/kgのERGの小麦サンプルにおける振とう法の回収率はけん化法に対して108%で,振とう法のRSD値は2.8%であった.今回開発した振とう法による穀物中のERGの分析法は,スクリーニング目的として用いるには十分適用可能であると考えられる.