抄録
ムギ類赤かび病菌のFusarium gyaminearumはニバレノール,デオキシニバレノールなどのトリコテセン類やゼアラレノンなどのフザリウムトキシン類の穀類への汚染をもたらす原因菌として知られる菌種であるが,一般に穀類からの分離株では分生子の形成が不良である.Fusariumの正確な同定およびトキシン産生能の検索には単胞子分離株を得ることが必須であるが実際には困難な場合が多い. 従来,本種の分生子形成の誘導の試みは古くからなされており,特殊な基質に培養する方法や,紫外線などの光照射により誘導することが知られているが,長時間を要したり,必ずしも簡便ではない.我国でも,西門以来,植物病理学の分野の課題となっている. 著者の一人はかつて腐生菌線菌目のCamposporium属菌の分生子形成に光照射および菌糸の損傷が有効なことを報告した.これを応用し,今回,ムギ類由来Fusarium初代培養菌株に光照射および気中菌糸除去を行うことにより,容易に分生子形成を誘導することができ,単胞子分離株を得る方法を確立したので報告する.