抄録
低級脂酸の病態生理およびその臨床的意義にかんしては,なお不明な点が多く,全く未開拓の分野である.低級脂酸は高級脂酸と異なりエステル化され難く,水溶性に富むという化学的特質は,その体内動態の面で著しい特徴を示す.また低級脂酸が揮発性に富み,しかも,血中にはμgオーダーという極めて微量にしか存在しないものであるため,その測定は高級脂酸と比べて著しく困難な点が多い.著者らはイオン化型ガスクロマトグラフ装置を用い,これに応用できる独自な血漿低級脂酸測定法を考案した.ついで肝疾患を中心として,血漿低級脂酸(炭素数4から6まで)の測定を試みた結果,主としてEck瘻症候群および肝性昏睡群で,有意に増量することを見出した.これは全く新しい知見であって,著者らは,この血漿低級脂酸増量の機序の一つとして,門脈由来性低級脂酸が,肝および全身代謝機能低下によると仮説し,若干の考察を試みた.