日本内科学会雑誌
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精神神経症状を伴わないhypoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase欠損症の一家系
豊岡 照彦赤岡 家雄西沢 常男吉村 隆西田 〓太郎伊藤 幸治
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1975 年 64 巻 1 号 p. 38-43

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抄録

精薄,自傷行為, choreoathetosisおよび痙性麻痺などの特異な精神神経症状と,若年性痛風症を併せもつ疾患は,その最初の記載者名からLesch-Nyhan症候群とよばれ,本邦でも十数例報告されている.後にこの症候群は,プリン生合成の過程でhypoxanthineまたはguanineから,それぞれのnucleotideへの転換の際に必要な酵素hypoxanthine-guanine phosphoribosyl transferase (HGPRT)の先天性欠損症であることが判明した.最近われわれは, 5才から若年性痛風の症状とHGPRTの欠損を示すが,精神神経症状を全く呈さず,重篤な腎不全にこ推移した男子の1症例を経験した.母および同胞2人のHGPRT活性はほぼ正常値を示した.また皮膚生検でえた線維芽細胞を組織培養し, 3H-hypoxanthineの取り込みをautoradiographyで調べた結果,患者では取り込みをまつたく認めず,母および姉2人では細胞の取り込みにmosaicismを認めた.この事実は伴性劣性遺伝におけるLyonの仮説で説明でき,また患者は男性で,家族内の女性は臨床生化学的にも正常であつたことなどから,本症例の遺伝様式は伴性劣性遺伝と考えられた.本家系は精神神経症状を伴わないHGPRT欠損症と思われる.かかる家系例で,線維芽細胞のtissue cultureとautoradiographyから,一家系内で伴性劣性遺伝を証明したものは,本例が嚆矢であろう. HGPRTの完全欠損と部分欠損の区別の可否について考察した結果,本症例にこついてもその区別をさけて単に,「精神神経症状を伴わないHGPRT欠損症の一家系」とした.

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