1982 年 71 巻 6 号 p. 830-836
原発性マクログロブリン血症の病像を呈しながら, IgA型M成分を伴う症例を経験したので報告する.症例: 56才,男性.白血球増加の精査のため入院.軽度の肝腫を認めるも脾腫,リンパ節腫大はなし.末梢血では約90%がリンパ球よりなる白血球増加(27600)を認め,骨髄ではリンパ球段階のものから形質細胞にいたるまでの多彩な形態を示す腫瘍細胞の著明な増殖を認めた.血清中には42g/dlに達する大量のIgAκ型のM成分を認めた.このM成分の抗idiotype抗体を作製し,これを用いて本例にみられる多彩な形態を示すリンパ系細胞が同一クローンに由来することを明らかにした.また本例の末梢血リンパ球と正常人T細胞の混合培養(PWM刺激)で,リンパ球から形質細胞への分化がみとめられ,これらはIgAκ型を産生していた.一般にIgM産生細胞の腫瘍化(多くのCLL,原発性マクログロブリン血症)とIgG, IgA産生細胞の腫瘍化(骨髄腫)は異なつた病像を呈する.本例はIgA産生細胞の腫瘍化でありながら,むしろ前者の病像に近い.したがつて本例は両者を関係づける特異な病像としてとらえることができ, B細胞腫瘍の連続的な相互関係を考察する上で示唆に富む貴重な症例と考えられた.