日本内科学会雑誌
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広範な骨格筋壊死を伴つた非ケトン性高浸透圧性糖尿病昏睡の1例
杉崎 勝教国広 潔織部 安裕小野 順子高木 良三郎
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1985 年 74 巻 10 号 p. 1400-1403

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抄録

広範な骨格筋壊死を伴つた非ケトン性高浸透圧性糖尿病昏睡の1例Aする.症例は72才,男性.臨床症状およびCTscan所見より脳腫瘍を疑われ,ステロイドの大量投与をうけたが,急速に意識障害をきたしたので入院した.入院時深昏睡で,著明な高血糖と高浸透圧血症を認めたが血液ガスは正常で,尿中ケトン体も陰性であつた.非ケトン性高浸透圧性糖尿病昏睡と診断し,ただちに経静脈内少量インスリン持続投与と0.45%生理食塩水の大量輸液を開始した.血糖と血漿浸透圧は漸次正常化したが,入院後4日目より尿の色調が茶褐色となつたため,血中,尿中ミオグロビンを測定したところ,いずれも著明な高値を示した.同時に血清CPK,アルドラーゼも高値を示したので骨格筋の障害を疑い, 9日目に左大腿四頭筋より筋生検を施行した.その結果骨格筋の広範な壊死を認め, acute rhabdomyolysisと診断された.その後意識状態は漸次改善したが,発症9ヵ月後においても四肢の著しい筋力低下を残した.非ケトン性高浸透圧性糖尿病昏睡で,ミオグロビン尿を呈した症例はこれまで本邦では報告が見当らず,外国例についてもこのような重篤な筋力低下を残した報告は見当らない.本症例の底範な骨格筋障害は入院時の著明な低カリウム血症,ショック状態,深昏睡に伴うgluteal compartment内圧の上昇に加えて,治療に伴う急速な筋細胞内水分量と電解質の変化などがその要因と考えられるが,とりわけhypokalemic necrotizing myopathyの関与が大きいと考えられた.

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