日本内科学会雑誌
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心理・生理的脱感作法が奏効した食品アレルギーの1成人例
岡部 憲二郎中野 博永田 頌史手嶋 秀毅吾郷 晋浩中川 哲也
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1985 年 74 巻 8 号 p. 1139-1143

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抄録

症例は60才の女牲.乳児期より微量の卵を摂取すると置ちに消化器症状や皮疹を呈し,時には呼吸困難や意識消失まできたすことがあつた.また卵の接触にても局所の皮疹を生じていた.皮内反応では卵黄,卵白ともに107倍の希釈液にて陽性を示し, RASTスコア(卵白)は, 3,二重盲検による卵黄の経口負荷試験も陽性であつた.治療方法として,催眠を用いて心身のリラックスした状態を作り,イメージの上で卵に触れさせることから,実際に充分量の卵を摂取させるところまでを系統的に脱感作した.その結果,卵1個食べても全く症状が出なくなつた.治療後の皮内反応の閾値やRASTスコアは治療前と大差なかつた.一般に食品アレルギーの治療において,脱感作は無効と考えられているが,本例の治療経過より,心理的な側面を含めた脱感作を行なえば治療が可能であること,そして食品アレルギーの症状発現の機序に抗原抗体反応だけでなく,心理的因子も関与していることが示唆された.また本例は,塩化リゾチーム20mgを服用してもショック状態に陥るほどの過敏反応がみられた.しかし,卵アレルギー治療後は同薬の皮内反応には強陽性を示したまま, 120mgを服用しても過敏反応の出現をみなくなつた.このことから薬物アレルギーの中にも食品アレルギーと同様に心理的因子の影響を無視し得ないものがあり,また治療効果も期待できるもののあることが示唆された.

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