日本内科学会雑誌
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Pituitary apoplexy後に発症した尿崩症の1例
飯竹 一広木村 時久松井 邦昭太田 耕造庄司 優井上 実羽二生 邦彦村上 治佐藤 秀一吉永 馨
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1985 年 74 巻 9 号 p. 1265-1269

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抄録

症例は56才の男.主訴は頭痛と悪心.昭和51年頃より性欲低下その後易疲労感を覚えるようになつた.昭和55年3月13日,突然悪心,頭痛出現,某医にて血性髄液所見より,くも膜下出血を疑われ脳卒中センターに入院する.その後,頭部X線写真上トルコ鞍のballooningが認められたためpituitary apoplexyと診断される.前医入院時意識は清明で血清Na値は130mEq/lであつたが,第7病日に105mEq/lに低下し呼吸停止等の水中毒症状を呈した.しかし,水制限により低Na血症は改善したため,内分泌学的検査のため当科へ転入院した.血中T3, T4値はそれぞれ112ng/d1, 11.3μg/dlと正常であり,血中コルチゾールは1.6μg/dl,尿中17OHCS, KS値はそれぞれ1.1, 1.5mg/日と低値であつた. glucocorticoidを補充したところ尿量が7~12l/日と急増し,尿崩症の存在が考えられた.脱水試験では血漿漫透圧が289mOsm/kgと高値にもかかわらず,尿浸透圧は84mOsm/kgと低値で,バゾプレシン投与後は484mOsm/kgまで上昇した.血中および尿中ADH値も0.8pg/ml, 1.6ng/hと低値で,中枢性尿崩症と診断した. DDAVP10μg/日補充後尿量は2l/日以下となり,下垂体腫瘍摘出術を行なつたが,腫瘍組織は特定できなかつた. pituitary apoplexyに永続的尿崩症を合併することは極めてまれで報告例は少ない.尿崩症の発生機序は不明であるが,出血後の血管攣縮等により視床下部付近にまで障害が及んだためと考えられた.

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