教育方法学研究
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研究論文
ドイツの価値教育における「態度」育成に対するハイトガーの批判
「知識と態度」 (Wissen und Haltung)の関係性に基づく価値教育の構想
平岡 秀美
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2021 年 46 巻 p. 13-24

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抄録

社会の世俗化・多元化に伴う共通価値の喪失に対し,学校教育には倫理・道徳的な「態度」の育成による社会統合という任務が課されていく。とりわけ70年代以降のドイツ社会においては,価値教育による青少年の問題行動の改善という社会的・政治的要求に応えようとする教育の方向性が見られた。このような教育の「態度」育成的側面に疑義を差し挟んだのがハイトガーである。では,彼がこのような批判を展開した背景とはどのようなものか。そして,彼の批判を基礎付けている理論とそれに基づいて展開された批判と代替案とはどのようなものか。本小論は,これらの問いに回答し,「知識と態度」の関係性に基づく価値教育のあり方を提示することを目的としている。 ハイトガーの価値教育批判とその代替案は,ペッツェルトによる,「知識」と「態度」を自我に属する統一体として捉え,それぞれを明確に区別しつつも相互に関係し合うものとして結びつける理論と,それに影響を受けたハイトガー自身の「道徳性と陶冶」の促しの理論に基礎付けられたものであった。これらの理論に基づき,ハイトガーは,現代ドイツの価値教育に対して,倫理的・道徳的な態度を育成するという意味での徳は教えられないと批判的主張を展開し,その代わりに,認識が態度についての問いを自己内部の「理性の法廷」という独自の判断機関において引き起こすと見ていた。そして授業では,その認識による問いを,対話的な導きを通じて促すことが重要であると述べていることが明らかとなった。

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