本論文の目的は,1980年代後半までのドイツ教育学に対してプレンゲルが行った批判的考察を手がかりに,プレンゲルが構築した「多様性の教育学」の特質と現代的意義を明らかにすることである。 ドイツでは,とりわけ1980年代以降に教育の文脈における「多様性」概念が検討され,「多様性の教育学」として発展してきた。本稿では,1980年代後半までのドイツの伝統的な教育学の課題を改善するためにプレンゲルが提示した「多様性の教育学」の特質を次の二つの柱に分けて整理した。
一点目は,1970年代以降に個別に研究されていた異文化間教育学,フェミニズム教育学,インテグレーション教育学という三つの教育学運動の共通性を考察することで,伝統的な教育学が子どもたちを「二者択一のジレンマ」に追い込んでいると指摘し,「平等を目指す差異」の思考形式を提案したことである。
二点目は,「多様性の教育学」の基盤である教育学における承認の理論を発展させたことである。 プレンゲルは「多様性」が変動的なものであり,社会的に生み出されるような曖昧なものであることを説明したうえで,「多様性」は定義できないものであると主張している。「多様性」が定義不可能であるという認識は,教師と子どもが間主観的な関係の中で相互に承認することの重要性や,あらかじめ予測できない子どもの創造的な活動を尊重する「自由の余地」を確保することの必然性の根拠づけとなる。
抄録全体を表示