抄録
細胞内での DNA、クロマチンの振る舞いについて、物理学の視点から講義する。生物の遺伝情報は塩基配列という形で DNAに蓄えられており、細胞内における DNAやクロマチン (DNA とタンパク質の巨大な複合体) の動態は遺伝子発現と密接に関連する。DNAの構造には明確な階層性が見られ、その振る舞いはスケールに依存する。例えば、たんぱく質との相互作用の舞台となる数十塩基対のスケールでは、二重螺旋構造を反映した弾性的な振る舞いを示す。他方、サブミクロン以上のスケールでは、屈曲性に富む高分子の振る舞いを示す。これらのことを念頭におき、DNAやクロマチンの多様な振る舞いと、そこに見られる普遍的な法則について理解を深めることを目指す。