物性若手夏の学校テキスト
Online ISSN : 2758-2159
第68回物性若手夏の学校
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非平衡/物性物理で探るブラックホールの内部構造
*宇賀神 知紀
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p. 103-122

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抄録
量子論を用いた解析によれば、ブラックホールはホーキング放射と呼ばれる、ほぼ(プランク分布に従う)熱的な放射を出して徐々に質量を失っていくことが知られている(ブラック ホールの蒸発)。ではブラックホール内部に落ちた状態を、外部に出てきたホーキング放射から復元できるだろうか? 本講義ではこの問題を、(一般相対論、超弦理論のテクニックを用いずに)量子情報理論、非平衡物理の知見を活用して解析することを主題とする。ナイーブにブ ラックホール上の場の量子論を用いた解析では、ホーキング放射は完全に熱的である。従って内部に落ちていった状態を、外部から復元することは不可能という結論に至る。しかしこれは量子論のユニタリー性と矛盾する結果であり、何かが間違っている。この問題はブラックホー ルの情報喪失問題と呼ばれ、その発見からほぼ 50 年経った現在でも完全な解決には至っていない。AdS/CFT対応は反ドシッター空間 (anti de Sitter : AdS) 上の量子重力理論が、その境界における重力を含まない(特定の)場の量子論と等価になることを主張する。近年この対応を応用することで、AdSブラックホールの情報喪失問題を, その境界における量子情報理論的なモデルを用いて解析することが可能であることがわかってきた。実際この様な観点から、 ブラックホールの内部の時空構造の正しい記述方法が理解されつつある。本講義ではまず(一般相対論の知識は仮定せず)ブラックホールの物理の基礎の解説から始め、何故ブラックホール内部の構造を理解するために、なぜ量子情報理論が有効であるのかを議論したい。その応用として、ブラックホールに落ちていった状態を復元する量子情報理論的なプロトコルを解析 する。
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© 2024 宇賀神 知紀
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