抄録
周期駆動系の物理が近年再び注目を集めている。高強度レーザーの進展により、原子・分子・物質を時間周期的に強く駆動することが可能になったことが一因である。このような系では複雑な非平衡現象が生じるが、 背後には(近似的)時間周期性が存在する。このため、いわゆるフロケ理論による系統的な解析が可能であり、現象に対する深い洞察を得られる。また逆にこの理論を元にして新奇な物質制御を予言することもできる。本稿では、フロケ理論の予備知識を一切仮定せず、この理論の構造と重要な概念(有効ハミルトニアン、 擬エネルギー、マイクロモーションなど)を、最もシンプルな2準位量子系を例に詳しく解説する。続いてこの理論に立脚して、フロケ・エンジニアリングや高次高調波発生などの非線形光学現象を概説する。最後に、時間周期性が厳密には成り立たない実際の実験にどのようにフロケ理論を適用するかを議論する。本稿では量子系を中心に議論するが、フロケ理論の枠組みは周期駆動下にある斉次一階線形微分方程式系に適用可能であり、いくつかの古典系にも適用可能である。